箱庭-流星の子守唄-

4話『涙を流す森』

 その森は涙で溢れていると言われていた。 砂漠において、水は命を繋ぐ大切なものだ。 自然、生き物は水の豊富な土地を求めてやって来る。 動物はもちろん、人々もまた涙の森に惹かれるのは必然だった。 だが、人々がやってくることを快く思わない者が森…

3話『闇に見える』

 結果として、男たちは街の外まで追ってくるような素振りは見せず、ソルとアリアの心配は無駄に終わった。 野営に必要な小型のテントとこの際だから、と奮発して――アリアが身に着けていた金の腕輪を売って工面したお金である――馬を一頭買った二人は、夕…

2話『星々の庭』

 半泣きになったソルを見て、ルーシェルが口角を上げる。 堕天使だった頃の名残か、鼻を鳴らす少年を見ているとどうにも気分が昂揚していけなかった。 虐め甲斐のありそうなやつだな、と眦を和らげたところをばっちりと細君に見つかってしまうが、知らぬ顔…

1話『眠れる獅子』

 ここはどこだろう。 気が付くと真っ白な空間に投げ出されていたソルは、己の腰に帯刀された見覚えのない剣に首を傾げた。 直前の記憶を思い出そうとして、頭に鋭い痛みが走った。 双子の姉から借りた戦術指南書を夢中で読み耽っていたところまで記憶があ…

序章、双子の太陽

 ピクリ、と眠っていたはずのナギの瞼が緩慢な動作で持ち上げられたのを見て、ヴォルグが小首を傾げた。「ナギ? どうしたの?」 そんな怖い顔をして、と続けるはずだった言葉は、声もなく涙を流した彼女の姿を目の当たりにした所為で引っ込んでしまう。「…