6話『新しい春』
「兄上――ッ!!」シィナが飛び出す。それをミアは止めなかった。だが、彼女のすぐそこまで迫った翡翠の刃を、氷の槍で受け止める。「飛び出すのは勝手だけど、周りにも気を付けなさいよ」何年、聖騎士やってるの、と皮肉たっぷりに微笑んで見せるも、今のシ…
片翼とシャングリラ
5話『祈り』
「ぐはっ」咥内を支配する血の味に、蘭月は顔を顰めた。眼前には見慣れない――否、幼い頃の姉にそっくりな少女が、蘭月から奪った刀を手にすぐそこまで迫っている。「陛下! 早くこちらに!」鈴蘭の悲痛な叫びが背中に投げかけられた。震えを帯びたその声に…
片翼とシャングリラ
4話『夜に目覚める』
――ナハト。声が、する。懐かしい、マスター《あの人》の声だ。◇ ◇ ◇ゆっくりと持ち上げられた《守護獣》の瞼に、ミアと研究チームの面々が「やった~!!」と野太い歓声を響かせる。旭日たちの話を参考に、龍の魔力――非番だったシィナが無理やり連れ…
片翼とシャングリラ
3話『薄明と三日月』
ミアが研究棟へ向かうと、そこは珍しく人で溢れかえっていた。何事だ、と視線だけで副隊長のアルフレッドに訴え掛ければ、彼も状況を把握していないのか、ふるふると弱々しく首を横に振った。「――ごほん。あ~~失礼。第五小隊に何か御用ですか?」わざとら…
片翼とシャングリラ
2話『ヴァルツの色』
「……ま~た、面倒くさそうなもん持って帰ってきやがって」「そう思うなら、最初からクオンが行けば良かったでしょ」げ、と舌を突き出しながら遺跡探索組を出迎えたクオンに、シィナがため息を吐き出す。「いいのか? 俺が同行するってなったら、姉貴は遺跡…
片翼とシャングリラ
1話『守護獣』
「待ってよ、ミアちゃん! 危ないってば!」シィナの静止も何のその。もはや小鳥の囀り、程度にしか思っていないのか、紫色の隊服が風にたなびくように颯爽と翻る。「だーいじょうぶだって! 私を誰だと思ってんの? ヴァルツの名を冠する者に不可能はない…
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