箱庭-流星の子守唄-

番外編『星降る夜に』

――アストライア。懐かしい声が、自身の名前を紡ぐ。朗らかに笑う愛しい夫――ヴァトラの姿が、脳裏を過ぎる。王を象徴する緋色の髪と瞳を持って生まれたヴァトラは、歴代魔王の中でも異質な存在だった。そんな彼とアストライアが出会ったのは、ヴァトラの成…

6話『太陽の子』

 はらはらと身体が崩れた大聖女とともに、ソルとナギが砕いた逆鱗も地面へ投げ出される。「……これでやっと、楽にしてやれる」 青と緑の色の異なる逆鱗の欠片を一つずつ拾い上げると、ナギはホッとしたように安堵の溜め息を吐き出した。 遠くを見つめるよ…

5話『箱庭の勇者』

 マリアが迦楼羅の焔を使って敵の足止めを行っている背後で、三人は互いに顔を見合わせて、頭に疑問符を浮かべていた。「……もしかして、聖剣の保持者を勇者と呼ぶのですか?」「世界の法則で、最低でも一人は『必ず』選別されるようになってるンだ。まァ、…

4話『叡智の天使』

 アリアは己の不甲斐なさにこれほど歯噛みしたことはなかった。 ぎり、と歯を食いしばりすぎたせいで、口の端から血が滲み、気付かぬ間に白い顔を僅かな赤で汚している。「あの大きさの獣は初めて見る。もしかすると核をいくつか取り込んでいるのかもしれな…

3話『勇者の背中』

 ソルとアリアが箱庭に戻ってきて二日後。 異変は起きた。 それまで苛烈なまでに眩い命の輝きを放っていたはずのとある惑星が、じわじわと闇に飲み込まれ始めたのである。「ソル! 惑星ネアが! 貴方の故郷が!!」 アリアの悲鳴交じりの声に、ソルは取…

2話『生成り』

 久方ぶりの娘との会話を十分に堪能すると、ルーシェルは天界へと戻っていった。 その横顔は今まで見た中でも、とびっきり穏やかなそれで、まるで絵画の一枚でも見ているようだったとソルは密かに見惚れてしまった。 天使と名の付く者は総じて美しい。 改…

1話『陽と影』

 シュラと新芽の久方ぶりの再会に水を差すわけにはいかないと、ソルとアリアは別れの挨拶もそこそこに彼らの惑星から箱庭へ帰還した。 今回の遠征は今までの中でも短期間で成功したこともあり、こちらも久方ぶりの休息を満喫することが出来ると喜色ばんだ笑…

4話『蕾の守り手』

 水鏡に映り込んだ『世界樹の新芽』には、自身が探し求めていた人物が穏やかな表情で横たわっていた。(エルヴィ……) 心の中で名前を呼ぶ。 獣の干渉を受けなかったのではない。彼女が自分のことを守ってくれていたのだ、とシュラは直感で悟った。 かつ…

3話『芽吹き』

 微睡のような心地良さを纏った柔らかな風が若葉を擽る。 そよそよと揺れる若い新緑の葉の隙間から、太陽がこちらをじっと見つめていた。 思わず欠伸が零れ落ちてしまいそうなほど穏やかな気候に、寝不足のシュラは欠伸をしたり、目元を擦ったりと動きが忙…

2話『みなもと』

 獣が白い靄となって空へと昇っていくのを三人は黙ったまま見つめていた。 最初に口を開いたのは、無論、状況を上手く飲み込めていないシュラである。「さっきの炎と似た気配がしたんで斬ったわけだが、今のはどういうことか説明してもらえるかな?」 シュ…

1話『蒼い龍』

 シュラがそこを通りがかったのは、全くの偶然だった。 森の中が騒がしいな、と感じてはいたが、繁殖期の魔物が縄張り争いでもしているのだろうと呑気なことを考えて歩いていた罰があたったのかもしれない。「う、うわあああっ!?」 空から少年が降ってく…

5話『遠雷』

 ソルが持ち帰った『星の核』――基、泉の妖精を見て、アリアは目を剥いた。 まさか、昔話に登場した本人が存在しているとは思ってもみなかったのだろう。 はくはく、と水中で魚が呼吸をしているときのような口の動きをして、ソルと泉の妖精を見比べる彼女…