「見つけた」
ゆっくりと開いた瞼の先に居たのは、満面の笑みを浮かべた銀色の青年だった。
別れを告げたときよりもがっしりとした身体つきと、少し掠れた低音に、思わず瞬きを繰り返す。
「賭けは、俺の勝ちだよな?」
見つけてね、と約束はしたが、期限は設けていなかったはずだ。
彼の言い分が正しいと私は頷くことにした。
ふわり、と初夏の風のように優しく微笑んだ彼に釣られて、私も眦を和らげる。
「お前に会ったら言おうと思っていた言葉があるんだ」
彼の傍らには、彼の目と同じ蒼を冠する名を持つ龍が佇んでいた。
二人分の優しい眼差しを一身に受け、思わず後退りそうになった私の手を、彼の手が掴んだ。
熱い。
ひゅっと息を飲んだ私に気が付く様子もなく、彼の唇が手の甲に触れていた。
蕾が花を開くように、手の甲が熱を帯びながら赤く染まる。
「好きだよ、エル。俺の番になってくれますか?」
太陽の光を吸収した彼の銀髪が、きらきらと光って眩しい。
その所為で、視界が滲んだ。
滲んだ視界で彼を見つめることしか出来ない私に、彼がまた距離を詰めてくる。
返事は、と聞かれても、目覚めたばかりの所為で舌が渇いて上手く音を成さない。
「それとも、俺のことが嫌いになった?」
意地悪な質問をされて、腹が立った。
そんなことがあるはずもないと分かっているくせに。
頬を濡らす涙を乱暴に拭うと、握られたままの手を思いっきり引っ張った。
久しぶりに間近で見た青い海が、不安そうに揺れている。
「……頼まれたって嫌いになってあげない」
「はははっ。声、ガラガラじゃないか」
楽しそうに笑い声を上げる彼に腹が立って、煩い口を塞いでしまうことにした。
手の甲に触れたときとは比べものにならないほど、何倍も熱い。
私よりも高い体温がゆっくりと侵食するような感触に、思わずきつく瞼を閉じる。
「待たせて、ごめんな」
金色の髪に、彼の手が絡められた。
そこには彼から貰った髪飾りがあった。
慎重に触れたかと思うと、彼が髪飾りへ口付けを落とす。
「これからはずっと一緒だ」
「うん!」
差し出された手に、私は迷うことなく自分の手を重ねた。
とくん、と伝わってくる音に、自然と顔が綻ぶ。
すっかり逞しくなった彼の腕の中に閉じ込められて、驚いたのも束の間。
掠めるようにもう一度キスを落とされて、目を白黒させている私を他所に、彼が歩き出す。
よく晴れた日の穏やかな午後の出来事だった。