麻袋に詰められた汚物――校長の兄――を連れて、旭日率いる郵便
「……敷地、広すぎやしません?」
うんざりとした口調で言った夜雨に、理世も苦笑を浮かべる。
「うちの学校は元々、軍事施設も兼ねていたからね。桔梗の実家ほ
「補足すると、ここの地下はまだ非公認で稼働しているぞ。校長と
旭日が落とした爆弾に一同の顔に緊張が走った。
「心配せずとも今はいない。この男を使って、取引の時間をずらし
「なるほど。さっきのはそういうことだったんですね」
「常陸の小鬼も、観察眼が鈍いと見える」
カッカッカと豪快に笑う旭日をよそに、先輩に対して『小鬼』など
「セキュリティなどは、そこの子狐どもが切っているからな。好き
「……ご配慮感謝します」
こんなにも動くのが楽だと思ったことは初めてだ。
いつもはシアンと二人で、後輩たちの負担を減らすために電気系統
「ドンが時間を稼いでくれたおかげで、ここの捜索に時間が割ける
こくり、とそれぞれが頷きを返す。
「桔梗の他にも、今日あちらに送られる予定の人が居るはずだ。桔
「設計図を見る限り、人を収容できそうな部屋はいくつもあります
遠慮がちに手を上げた桔梗の意見に、理世の目が孤を描く。
「心配いらないよ、桔梗。制御室を押さえてあるのなら、カメラが
向こうにしてみれば、大事な商品である。
監視カメラを設置していてもなんら不思議はなかった。
「流石、理世くん。そう言うと思って、スマホに接続しておきまし
「ん。助かるよ」
ホロから受け取ったスマホには、校長たちが使用されていると思わ
「人が居るのはここだけみたいだ。どうするシアン?」
遠回しに、桔梗についていてやれ、と言われたような気がして、シ
対する理世も、彼の表情から全てを察し、両手を上げ悪かったのポ
「愚問だったね。今回は助っ人も居るし、手短に済ませよう」
その後の組み分けは早かった。
隠密・索敵チームは理世・夜雨・ホロ・ユタ・紗七の五人。もしも
「……こっちのメンバーに不安しかないんですけど、ユタさん何で
「ふふ。大丈夫よ、桔梗。ドンはああ見えて、理性的だから」
「アレのどこが理性的って言うんですかっ!!」
アレ、と桔梗が称した旭日はと言えば、目が覚めて喚きはじめた校
「俺は刀で皮膚を剥ぐ拷問が一番得意なんだがな、今回は時間の都
意味が分かるな。
独眼の男が絵画の中から飛び出てきたかのような妖艶な仕草で、美
それを見慣れている桔梗やホロたちはまだしも、今回初見である理
「……はい、みなさーん。戻ってきてくださーい。やっていること
桔梗の声に、全員が正気を取り戻すと、それぞれが持ち場へ向かう
「桔梗よ」
「はい、兄さん」
「傷は痛むか?」
「ええ、少し」
「ふむ」
旭日は男の口から銃口を抜くと、何の衒いもなく男の足を撃ち抜い
「ぐあッ!?」
「ああ、すまない。俺の『妹』が随分と世話になったようだからな
まったく悪びれもせず、そう言ってみせた旭日に、桔梗がまた呆れ
「ドン、殺さないように気をつけてくださいね」
理世が苦笑を落とす、なんて珍しい光景も、旭日が来てからはすっ
「心得ているとも」
ギリギリを攻めるのは得意だと、ひどく物騒なことを宣いながら、
男の荒い息が、埃くさい部屋の中に木霊した。
「さて、と。今回は、バックに銀竜会が居ることだし、武器の使用
それこそ、朝飯前である。
それぞれが人の悪い笑みを浮かべるのに、理世の目に楽しそうな光
「……常陸の小僧よ」
今にも踏み出さん、とした理世を呼び止めたのは、先程まで楽しそ
「お前、酒は飲めるクチか?」
「一応、成人してますって前にもお伝えしたつもりなんですけど」
どこか拗ねたような口調で言った理世に、旭日が歯を見せて笑う。
「気に入った。戻れば、俺の杯をやる」
「え、」
「お前となら、盃を交わしてみるのも悪くないと言ったのだ」
ひらり、と言うだけ言って満足した旭日は、血溜まりの中で痙攣し
「りい、今のって、」
「……銀竜会が俺の後ろについてくれるってこと、かな」
驚きを隠せない、次期常陸家当主とその妻に、桔梗がしたり顔で言
「兄さんが、自分から盃を交わしたのは華月姉さんくらいです。よ
「それは、光栄だな」
俄然、やる気に満ちた表情になった理世の背後では再び物騒な尋問
今度こそ、人質を救出すべく、理世たちは大きな一歩を踏み出した
それから、理世たちが人質を連れて戻ってきたのは、およそ二時間
目的のものも、無事に手に入れたとのことで、桔梗たちはホッと胸
「帳簿をアジトに置いたまま出るなんて、間抜けだニャー、なんち
夜雨がペラペラと雑誌でも捲るかのように、退屈そうな動作で、こ
「それにしても、今までこんなに売られた人が居ったなんて……」
「良かったなぁ、柚月。お前、郵便部に入ってなかったら、今頃売
「もー! 何でそんな怖いこと言うんよ! やめてや!」
「いやいや、マジで。だってさ、お前――――」
こしょこしょ、と柚月の耳に直接吹き込むあたり、どうせ「可愛い
全員が生易しい目で見守る中、案の定、顔を真っ赤に染めた柚月が
「あの二人っていつもあんな感じなの?」
ユタが、胸焼けでも起こしたような表情で、桔梗の側にやってきた
「付き合いだしてからずっとあんな感じですよ。ちなみに、付き合
「……もう、お腹いっぱいだわ」
「同感です」
ふう、と肩をすくめて、美女二人は天井を仰いだ。
「桔梗」
振り返れば、旭日が楽しそうに笑っている。
「こちらも準備が整った」
「分かりました。理世先輩、どうしますか?」
桔梗の問いに、理世は思わず、隣に並ぶシアンに視線を移した。
彼は、じっと理世の目を見ると小さく笑ってみせる。
「もちろん。最後まで、お供させていただきますとも」
やけに芝居がかった口調でそう告げた彼に、理世が喉を逸らして笑
「いきましょう、ドン・旭日。常陸の名にかけて、このゴミを日本
「カカ。良いだろう。おい、ホロ。アギアに連絡を取れ。少し早い
「是、大家」
ホロは深々と旭日の前に、頭を垂れると、皆から少し距離を置いて
「何だか、去年の今頃が懐かしいねぇ」
不意に理世がぽつりと呟いた。
空気の中にゆっくりと溶けていった言葉に反応したのは、やはりと
「もうすぐ、新入生が入ってくる季節だな」
上級生二人のしんみりとしたやり取りに、桔梗と夜雨は思わず苦笑
「二人とも、ハッピーエンド感満載のところ、言いにくいんですけ
「そうですよ。先輩方にシャキッとしてもらわないと、俺らのやる
すっかり逞しくなった後輩からの激励に、野太い笑い声が二つ、静