私立カモミール学園

10話 暁闇に咲く

 旭日たち銀龍会の手引きで、郵便部一同は真夜中のとある港に足を踏み入れていた。 コンテナが迷路のように複雑に積み上げられているにも関わらず、ホロやユタはまるで慣れた家路を辿るかの如くスイスイと進んでいく。 やがて、赤色のコンテナが一同の前に…

9話 勝利の盃

 麻袋に詰められた汚物――校長の兄――を連れて、旭日率いる郵便部の一同がやってきたのは、別の旧校舎だった。「……敷地、広すぎやしません?」 うんざりとした口調で言った夜雨に、理世も苦笑を浮かべる。「うちの学校は元々、軍事施設も兼ねていたから…

8話 君を喰らわば、骨まで・後編

主人にこの任を与えられた時は、何を無茶な、と思ったものだが、あの人の無茶は今に始まったものではないな、と拾ってもらった当時を思い出して、少しだけ笑った。「紅華」自分には到底似合わない偽名に、本日何度目かのため息を吐き出しながら、声のした方へ…

7話 君を喰らわば、骨まで・中編

 瞼の裏に感じた光に、桔梗はゆっくりと意識を浮上させた。 辺りを見渡せば、薄汚れた壁と使われていない古い体育用のマットレスが目に入る。 埃の匂いと息苦しさに顔を顰めると、そこで初めて自分が拘束されていることに気が付いた。 花の女子高生にも関…

6話 君を喰らわば、骨まで・前編

 今朝の空気が冷たく髪の隙間を通り抜けていった。 寒い、と小さく呟いた桔梗の声は、まだ宵闇を滲ませた明け方の空に消えていく。「……それにしても、華月姉さん遅いなぁ」 自分から話がしたいと言ったくせに、と変わり者の遠縁に思いを馳せるも、季節は…

5話 そうだ、温泉へ行こう

 レストランの一件が耳に入ったのか、その後三日間ほど校長は学校に姿を現さなかった。 嵐の前の静けさだ、と誰もが思っていたのだが、ケロッとした顔で「昨年から予定していた旧校舎の改装を行います。その為、春休みを一週間早め、明日から全学部を休校。…

4話 白銀の襲来

「桔梗!」 切羽詰まった友人の声に、桔梗は伏せていた机から緩慢な動作で顔を上げた。 昨日は配達当番だったため、あまりよく眠れなかったのだ。「なぁに?」「校門のところでアンタの名前を叫んでいる強面の人がいるんだけど……。知り合いかどうか確かめ…

3話

 紗七と柚月が正式な部員となって早一週間。 これまで一週間に一度の割合で手紙を配達していた郵便部であったが、部員の増員に伴い週に二日配達が可能となった。 理世の持つ独自ルートで生徒たちにそのことが知らさられると、手紙の量はあっという間に増加…

2話

寮の消灯時間は十時半。そして、現在の時刻は十一時五十分。作戦開始の五分前である。幸いにも紗七と柚月は同室であった。お互いのベッドに互いの毛布やらクッションやらを詰めて人が寝ている風に見せかけると紗七がそっと窓から外に飛び降りた。柚月もそれに…

1話 

 ――私立カモミール学園。 幼稚部から大学までを一貫で通える数少ない学園の一つとして知られている。 部活動も盛んでスポーツ系からスカウトされる生徒も少なくない。 そして昨年活動を開始した部活動を生徒たちは親しみを込めてこう呼んだ。『郵便部』…