黄昏に勇者は笑う

5話『アリスの子どもたち』

「聖子(チルドレン)」チヨは声がした方を一瞥して相手を確認すると、面倒くさそうに席から立ち上がった。「貴女がここに来られるとは珍しいですね、大聖女(マザー)」そこには三十路半ばの女が立っていた。ローブの隙間から覗く金髪と、挑発するような赤い…

4話『優しい暴牛』

ふかふかのベッドに慣れたかと思えば、目を閉じると忌々しいあの夜の出来事を思い出して寝返りを繰り返しているうちに朝が来る。下瞼にくっきりと浮かび上がった隈を見て、ナギは「げ」と舌を突き出した。あの日から一週間が過ぎようとしているのに、ナギの身…

3話『裏切りと白薔薇』

匂わせる程度に、モブレ&事後描写あり。ご了承いただける方のみ、閲覧ください。絹で仕立てられた白い夜着が肌の上を滑る。慣れないドレスの次に、これまた慣れないものを着せられて、自分で言い出したことにも関わらず、ナギの機嫌は悪くなる一方で…

2話『硝子の牙』

ヴォルグ様、と掛けられた声に、ナギは顔を曇らせた。振り返らずとも分かる。レヴィアタンだ、と露骨に嫌そうな顔をしていると、隣に立つヴォルグが小さく笑うのが気配で分かった。「やあ、レヴィ。素敵なドレスだね。良く似合っているよ」「ありがとうござい…

1話『聖アリス教会』

傾国の毒婦、アスモデウス。初代魔王ルーシェルの側近として仕え、彼の没後から今代の魔王に至るまでを「裁定」してきた伝説の魔族。美しい容姿とは対照的にその身に宿す毒の魔力を用いて残虐非道な殺戮を好み、多くの国を没落させてきたと歴史書には記されて…

冷たい肌に溺れる

初、おせっせ話です(ヴォルグ×ナギ R-18)大丈夫な方のみ、お進みください。「ナギ」 不意に呼ばれた声は、初めて聞く類のものだった。 振り返るとそこには執務机に座っていたはずの魔王陛下が、ソファの後ろで腕を組んでナギを見下ろしている。「な…

5話『甘い罠』

魔王城の湯殿は、波間の空が一番近く、そして美しく見える場所に造られている。星屑が散りばめられた湯に肩まで浸かり、ほう、と悩ましい息を吐き出したナギは、ドレスの所為で凝り固まった身体を和らげようと緩慢な動作で腕を回した。「あ~~~! さいっこ…

4話『狩人』

「まさか、君が女の子だったとはねぇ」顎が赤くなったナギと向かい合わせになりながら、ヴォルグはふう、と重いため息を吐き出した。「悪かったな。女っぽくなくて」唇を尖らせてそっぽを向いたナギだったが、その視線の先には朗らかな笑みを浮かべたマリーが…

3話『闇に潜む』

『良いか、ヴォルグ。お前が「剣」を選ぶときには決して三貴人の選定した者を選んではいけないよ。彼らは我々の味方であるが、同時に次期魔王の継承権を持つ権力者でもある。故に彼らの前で、気を抜いてはならない。私のように彼らの傀儡になりたくなければ、…

2話『魔王の剣』

魔王が人間を新たな配下として迎え入れたらしい、という噂が魔界中を震撼させていた。何故、人間のようにか弱い存在を自らの配下として迎え入れたのか、と魔王城には連日連夜、魔王に謁見を求める魔族が殺到していた。「……本日も見事に、長蛇の列だな」「え…

1話『白銀の勇者、異界の王』

「……さあ、立っておくれよ。勇者。君の力はこんなものではないだろう?」耳鳴りが、止まない。男の声が頭の中をぐるぐると忙しなく駆け巡る。「だま、れ!」「はは。元気だねぇ、君」くつくつと笑い声を上げる男に、ナギはぐっと歯を食いしばった。「黙れと…

魔王の花嫁

 マリーがそれを思いついたのは、ほんの出来心だった。 それと言うのも、以前ナギが夜会へ赴く際に着たドレスが、ひょっこりと顔を覗かせたからである。「……良いことを思いつきましたわ!」 ふふふ、と一人笑みを浮かべた彼女の姿をナギが見納めていれば…