雨宿り

5話『誓いの言葉』

復活した銀の手引きで、梅鼠から雪崩れ込んだ白蜂商会の戦闘員たちの活躍によって、青蘭の街は制圧された。梅雨と時雨の叔父は今回の主犯格として捕えられ、白蜂商会の会長の元へと送還されることが決まった。「……最後に一発殴らなくて平気?」小炎が遠慮が…

4話『雨上がりに願いを』

青年の利き腕には古傷があった。今より少し前、相対している男に付けられたものだ。その所為で同年代の中でもとりわけ成績の良かった射撃の腕は廃れ、剣はもちろん、箸やペンなど日常生活にも支障をきたした。残ったもう片方を一から鍛え直し、自由に行動でき…

3話『蓮とその守り人』

青蘭は混乱の渦に呑まれようとしていた。たった数人の侵入者によって、指揮系統は麻痺。高い金を払って雇っていた傭兵たちも次々に倒れ、残ったのは武器も碌に手にしたことのない人間ばかり。「……もう、終わりだ」そう呟いた従兄弟の頭を、男は容赦無く撃ち…

2話『懐かしい色』

「時雨……!」小さな身体を抱き寄せる。子ども特有の高い体温が、触れている場所から伝わってきた。――生きている。ほっと胸を撫で下ろした東雲とは対照的に、腕の中の時雨は目を白黒させていた。「ど、どうして、ここに」来なくていいと告げたはずだ、と可…

1話『呪言』

もういいよ、と言った声は彼にきちんと届いただろうか。冷たい――とても生きている人間とは思えない体温の姉に抱かれながら、時雨は唇を噛み締めた。青白い肌の姉は、先ほどから何度話しかけても「うん」や「そうね」と意味のない言葉を繰り返しているだけだ…

7話『屍が征く』

全てを話し終えると、東雲は時雨からそっと視線を逸らした。腕の中にすっぽりと収まっている少女からの反応はない。「……時雨?」呼びかけてみるも、時雨は微動だにしなかった。しん、と嫌な静けさだけが部屋に広がっていく。「し、」「東雲は、」もう一度少…

6話『酒涙雨-後編-』

梅雨の妹、時雨が囚われているのは黒燈が店を構える街のずっと東にある廃れた村だった。かつては栄えていたらしいが、時代の流れについていくことが出来ず、村民のほとんどに見放されたのだそうだ。梅雨と時雨の母親もその一人だったが、その子どもが『蓮宿』…

5話『酒涙雨-前編-』

聞こえるのは己の息遣いだけ。右手に握った銃が構えた先には、一人の少女が立っていた。今回の指令は、あの少女を殺し、亡骸を回収すること。東雲にとっては簡単な任務のはずだった。引き金を引こうとした瞬間に少女と目が合うまでは。「!?」「捕まえて」少…

4話『おもかげ』

「ふっかーつ!!」赤鬼を象った真新しい面を身につけた小炎の姿を見て、銀は目尻を和らげた。昨日までの不調が嘘のように明るさを取り戻した様子に、ほっと胸を撫で下ろす。「小炎、新しいお面もかっこいいねぇ~!」小炎の膝で寛ぎながら時雨が溢した言葉に…

3話『呼び名』

「どこだ!! 累(るい)!! 居るんだろう!!」小炎は自身の内から溢れ出てくる炎に苛まれながら、必死で累の姿を探した。あの女が関わっている。それだけで、今にも全身が煮え滾りそうだった。「居るのは分かってるんだ!! 出てこい!!」往来を行く人…

2話『鬼の宿命』

小炎の発作は日に日に酷くなる一方だった。いよいよ明日、小炎の伯母である梅が旅館に戻ってくる予定だったが、それよりも先に小炎が爆発してしまいそうな状態である。面によって鬼火を制御していた小炎にとって、面を外すということは即ち鬼の力を常時解放し…

1話『銀に燻る』

「最悪だヨ」と、小炎はこれ以上ないほど顔を顰めた。常であれば、その顔は鬼の面に隠れて見えない。真っ二つに破られた面と窓枠に腰掛ける銀とを見比べて、小炎はもう一度「最悪」と毒吐いた。「何でこんな奴と一緒に行動しなくちゃいけないワケ!!」天敵で…