雨宿り

6話『鬼ごっこ』

びり、と背筋に走った電流のような殺気に、東雲は顔を曇らせた。どす黒く重い、その感じには覚えがあったからだ。(……小炎の野郎、トチリやがったな)トラブルメーカーである彼のことだ。見張りにしては派手な鬼面を咎められたか、はたまた何か盗もうとして…

5話『春海へ』

「……やっぱり、隠し持ってやがったか」東雲はカラカラに乾涸びた男たちの遺体を見て舌を突き出した。彼らの懐から出てきた巾着袋の中に『輝石』がぎっしりと詰まっていたのである。東雲が彼らに拷問を始めて二日。交互に質問をすることで、それぞれの骨を十…

4話『空を舞う』

――パァン!!赤い花火が空を彩る。黄昏通りの向こう、街の中央通りの外れで花開いたそれに、小炎は顔を曇らせた。黒燈や星羅に危険が迫ったときのために持たせていた信号弾の色だったからだ。「ったく、もう! 忙しい時に限って……!」春海にこれから帰る…

3話『輝ける石』

ある夜、道端に落ちていた光り輝く石を拾った男がいた。男はその石があまりにも美しかったので、露店で売って銭にしようかと考えた。明日の朝一番、露店に持って行こうと考えた男は、その足でさっさと家に帰り着く。すると、不思議なことが起こった。誰もいな…

2話『残されたものたち』

黒燈の店で、東雲たちと生活を共にするようになって一ヶ月。小炎や星羅に一通り人間らしい暮らし方を学んだ時雨は、夜遅くに戻ってきて一向に起きる気配のない男に視線を這わせた。「東雲、いい加減起きないと小炎に怒られるよ」話し方も年相応の可愛らしいも…

1話『姉妹』

最初に鼻を衝いたのは、煙の臭いだった。身近で嗅いだことのないそれに、顔が歪むのが分かる。「お? 起きたか。随分と気持ちよさそうに寝ていたから、死んだかと思ったぜ」至近距離から聞こえてきた男の声に、]は唇を尖らせてムッとした。「しんでない」「…

序章、雨音

サアサア、天井から降り注ぐ雨が、静かに時雨の頬を濡らした。久しく感じたことのない外界の空気とともに落ちてきた天井の残骸と、その上に降り立った男に視線が釘付けになる。男は時雨の視線に気が付くと、額から流れていた血を乱雑に拭った。琥珀の双眸が、…