10話『選ばれなかった者たち』
島中――ここは外界から遮断された離島であるらしい――に響き渡る軽快な口笛の音色に、ハカリは顔を曇らせた。伝達が早い、ということは素晴らしいが、裏を返せば見張りの兵士が混乱するほど、敵が四方から攻め入ってきている、と考えることも出来る。「………
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9話『真珠海にて』
白銀の霧に隠された真珠海を、朝の潮騒が包んでいた。淡い薄紅の空が、海面に鏡のように映り込み、その中央に座す水上神殿はまるで空中に浮かんでいるかのようだった。ヴェレは一人、祈りの石畳に膝をついていた。着せられた白い礼服が、潮風を受けて小さくは…
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8話『星の声を聴く』
夜が明ける頃、港を発った小舟は、静かな《北の海》を滑るように進んでいた。まだ眠りの淵から顔を出したばかりの朝日が海面に降り注ぎ、さざ波に反射して揺れている様は、まるで星のようだった。その中央で、ヴェレは目を細め、遠くを見つめている。――海が…
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7話『幻の歌い手』
ガンガンと痛みを訴え始めた蟀谷に、ヴェレは文字通り頭を抱えた。《歌い手》を選別するためには、海底で眠る《魚座》の星獣《イクテュス》を目覚めさせる必要がある。本来であれば、先代が行方不明になった時点で、次の《歌い手》は決まるはずだった。それな…
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6話『嵐の先へ』
「流石、翠嵐の鉾ですね。あんなに硬かった龍の鱗を難なく突き刺すことが出来ました」るんるん、と効果音が聞こえてきそうなほど、ご機嫌なヴェレとは対照的に、龍の返り血を浴びせかけられたハカリたちは顔面蒼白になっていた。種族差によるかもしれないが、…
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5話『血の雨に墜つ』
そわそわと落ち着かない様子でヴェレたちが向かった森を見つめる少年に、ミントがクッと喉を鳴らした。ギルドにやってきたばかりの頃の彼を、妹と一緒になって揶揄いすぎた所為か、二人きりになった途端、シトラスは警戒心の強い猫のように大人しくなってしま…
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4話『帰らずの谷』
「じゃあ、ギルドに居る《乙女座》の人たちはどうやって出てきたのさ」「逆も然りなんです」「どういう意味?」「《乙女座》の一族もまた郷からは出られないんですよ」「出てるけど……」「時々、居るんですよねぇ~。掟破りのお馬鹿さんたちが」シトラスの質…
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3話『忘失』
「一旦、キャンプへ戻って、報告をした方がいいだろうね」「ええ。それがいいかと」坊やもそれでいいわね、とヴェレがシトラスに声を掛けるも、少年の顔は依然として暗いままだ。たった一人の肉親の行方が分からないともなれば無理もない。小さな身体が更に小…
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2話『冒険者』
最果ての丘、その更に奥地に《星送りの迷宮》と呼ばれるダンジョンが存在する。透き通った硝子で造られたそれは、遠目でも異質さが際立っていた。「相変わらず、綺麗なもんだねぇ」感嘆の声を漏らした青年の背中を、ヴェレはキツく睨んだ。「……どうして、負…
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1話『最果ての丘』
大砂時計が刻むは、十二の星々。降り注ぐ星の魔力によって作動している大砂時計だったが、魔力の弱い場所では当然ズレが生じる。「覚悟はしていたつもりでしたが、大陸の最南端にもなると時差が凄いですねぇ」腕に取り付けた小型の砂時計――ギルドから貸し出…
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序章、星海の放浪者
声を掛けたのは、ただの気まぐれに過ぎなかった。途方に暮れる幼い瞳が、かつての自分と重なったから――たったそれだけの理由だ。「もしかして、迷子ですか?」「え?」「私がこの街へやってきたのは昼過ぎです。その時も、ここで立っていたのをお見かけした…
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