23話『流星を継ぐ者』
一瞬の静寂。誰もが言葉を失い、ただ倒れ伏すアストラガルの傍に立ち尽くしていた。「……兄上」シャナールの嗚咽が、張りつめた空気を揺らす。息を切らして走ってきたタリクは、アストラガルの穏やかな表情を見た途端に、膝から崩れ落ちた。けれど、彼の右手…
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22話『暁と共に眠れ』
「随分とお粗末な術式じゃのう」フラーがふうっと息を吹きかけると、氷柱の一つがあっけなく砕け散った。空気中に舞った氷の結晶に、女魔導士の額に青筋が浮かぶ。「何をしたのッ!?」「お前さんに教えたところで、理解できんだろうよ」意地悪く細められた柘…
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21話『堕ちゆく星、目覚める矢』
白んだ空に、暁鷹の大群が影を描く。静まり返った谷に、不穏な羽音だけが木霊していた。まるで何かに操られるように──。聖地・《朝翔の谷(セリアス)》の空を覆い尽くした暁鷹の群れに、アストラガルを始めとした《射手座》の戦士たちは絶句した。大きく旋…
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20話『白銀に貫く』
歓声の余韻がまだ砦に木霊していた。戦いを終えたばかりのヴェレの耳にも、観客の声は遠い波のように聞こえる。熱を帯びた空気がようやく静まり、そこへゆっくりと歩み寄ってきたのは――脇腹に包帯を巻いたハカリの姿だった。「ハカリ、」呼びかけた声に振り…
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19話『狩人の誓い』
大きく翼を広げた暁鷹の剥製が、まるで一行を歓迎しているかのように、その瞳を輝かせている。魔除けの草を焚いているのか、部屋中に白い煙が充満していた。「ああ、すまない。狩りのために煙を焚いていたのを忘れていた。今、窓を開けよう」アストラガルはそ…
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18話『夜駆ける流星』
夜風を浴びたチェルカ草原が、ざわざわと唸る。ひとつひとつの葉が牙をむくように揺れ、まるで「帰れ」と叫んでいるかのようだ。耳を刺す草の合唱に、ヴェレは思わず眉間を寄せた。「余所者が入ってきて、怒っているんだ」「カイラムに乱暴するからだぞ」縄で…
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17話『暁を纏う矢』
「じゃあ、僕たちは三日も神殿に籠っていたってこと……!?」「ええ。私が持っている携帯用砂時計と、この街の大砂時計に狂いがなければ、の話ですが」「…………うそだあ」「嘘なものですか。それに私がそんな嘘をついて一体どんな得があるって言うんです」…
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16話『若獅子は閃光と舞う』
五つ星の目覚めたばかりの太陽が、目に沁みる。シトラスはごしごしと眦を擦りながら、空中で蝶と戯れるフラーに視線を送った。身体強化と刻印は魔力の編み方が異なる。そう口酸っぱくフラーに言われていたにも関わらず、シトラスは自身の身体に刻印を付与する…
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15話『言の葉を紡ぎ、星を編む』
こんなに胸が高鳴ったのは、いつ振りだろうか。兄のオーランが大きな獲物を一人で取ってきたのを聞いて家を飛び出したときか、ヴェレに買ってもらった魔導書のページを初めて捲ったとき以来かもしれない。ふんふん、と鼻息荒く書棚を見上げる少年の後ろ姿に、…
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14話『天秤と稲妻』
《雷風》が角に帯電した稲妻をバチバチと物騒に鳴らす。一目で威嚇と分かる行動に、ハカリは自身も剣の柄へ手を掛けた。少しでも身動げば、雷が落とされる。緊迫した雰囲気に呑まれたノクが、ハカリの背後で短い呼吸を忙しなく繰り返していた。「落ち着け。こ…
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13話『正義に揺れる』
カイザールの街は、二つの渓谷を跨いだ窪地に造られていた。窪地から東側の渓谷を目指して歩くと、大人一人がやっと通れるほどの小さな抜け道がある。額に張り付く髪を後ろ手に撫で付けたハカリは、苛立ちを隠そうともせずに舌打ちを落とした。生ぬるい風がハ…
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12話『継承の兆し』
「お客さん? 食べるのは構わないけど、対価はしっかり払ってちょうだいね」店主の女性が、怪訝そうに顔を顰めながら言った。「おっと、これは失礼」ハカリは慌てて、腰元を引っ掻くように革袋から淡い色合いの水晶――誰が見てもクズ石と分かる代物だった―…
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