夜明けの天使

3話『ただいまの口付けを』

二人して目元を真っ赤に染め、天界に戻ってきたルーシェルとアマネの二人に、ヨフィエルは苦笑しながらも天の門を開いてくれた。白く輝く門に朝日が反射してきらきらと眩しい。「ありがとう、アマネちゃん」門を潜ると同時に、ヨフィエルの小さな呟きがアマネ…

2話『末妹』

「大丈夫よ、ルーシェル。今なら、貴方の子をきっと孕んでみせる」尚も、見当違いな言葉を繰り返すイヴに、ルーシェルの額に青筋が浮かぶ。いい加減にしろ、と怒鳴り声を上げようとしたルーシェルだったが、よく知った気配を窓の外に感じ取って、動きを止めた…

1話『愛入れぬ二人』

目を覚ますと、懐かしい灰色の天井がルーシェルの視界に映りこんだ。鉛のように重い身体を起こすと、寝台の傍にある椅子でイヴが眠っていた。長い銀色の髪が、重そうに床に向かってしな垂れかかっているのに、そっと手を伸ばせば、髪と同じ色の睫毛の隙間から…

4話『未完の天使』

背中に感じていたルーシェルの気配が消えた。代わりに現れたヨフィエルの気配に、掌の上で踊る水晶が淡い白銀の光を放ち始めた。「……あっちね!」暗闇の一点を照らす水晶に従って、アマネは走った。(明星……!)イヴに抱き着かれた所為で苦悶の表情を浮か…

3話『始まりの人間』

東の空が明るい。初めての夜勤業務を無事に終えて、アマネはふう、と息を吐き出した。村の数は二つと本来この業務に付く天使の半分にも満たない数なのだが、見せる人間の数に圧倒されてしまった。ヨフィエルとの研修同様に、個人を相手に夢を見せていくのだが…

2話『夢堕ち』

目を開けると、そこには白い靄が広がっていた。辺りに漂う甘い百合の香りに、アマネは少しだけ顔を顰める。花園の百合でもここまで匂いのきついものはない。初めて嗅いだ強い花のそれに、険しい表情を浮かべた末妹を、ヨフィエルが苦笑しながら出迎えた。「ふ…

1話『門番の天使』

――叶わないことなど、初めから分かっていた。それでも、願わずにはいられなかったのだ。彼女と共に時を刻みたいと。◇ ◇ ◇夜明け前のひととき。天がまだ静けさに包まれているのを見計らって、門番隊の天使ヨフィエルはそっと寝所から抜け出した。まだ交…

5話『夜を纏う翼』

いよいよ、試験当日である。無事に上級天使二名――前日の夕方、滑り込みギリギリである――から試験内容変更の許可を得たルーシェルのおかげで、試験官テヴァを黙らせることに成功したアマネは、シーレたちの順番が回ってくるのを今か今かと待ち侘びていた。…

4話『元悪魔の天使たち』

「ルーシェル様!」ワッと押し寄せてきた部下たちを見て、ルーシェルは顔を顰めた。その手には、大量の模擬試験の用紙が握られていたからである。「……手短に話せ」額に手を遣りながら、ため息混じりにそう溢したルーシェルに、部下たちは歓声を上げた。「実…

3話『翼無き者』

どうぞ、とラムに案内されたのは昨日の小屋だ。そして、厳かに開いた扉の中を見渡して、アマネは目を剥いた。膨大な量の書類があちらこちらで高い塔を作って、小屋全体を埋め尽くさん勢いだったからだ。「……こ、これは一体」「よし、早速で悪いが片付けるの…

2話『呼び名』

やがて日も暮れた頃、ルーシェルにとっては見慣れた小屋に辿り着いた。雲の上にアマネを優しく下ろし、空いた両手を頭上に掲げ、二回叩いてみせる。すると、どこからともなく可愛らしい下級天使が二人、姿を見せた。「お呼びですか?」少し掠れたソプラノが二…

1話『長兄と末妹』

――ただ、愛されたかっただけなのだ。人間(彼ら)と同じように、己にも愛を向けてほしかった。ただそれだけ。優しい言葉と、温かい抱擁を望んだだけなのに。主はそれを与えてはくれなかった。ぼうっと、雲の上に建てられた小さな小屋の窓から人間たちを見下…