咲かない蕾

ホロスコープの向こう

カレンダーにデカデカと書かれた花丸に、アンナは「これって……」と声を漏らした。「アンナちゃんの任期終了まで、あと三日だからね。忘れないように書いておいたんだよ」ボサボサの髪を掻き毟りながら、ホロが早口で答える。覚えていたんですね、と喉元まで…

金色の春

シーツの上を唸る金色の大海に、シュラはそっと目を窄めた。真新しい朝日を吸収して、目が眩みそうなほどの輝きを放つそれに、少しだけ眉間に力が籠る。「……今、何時だ」ベッドサイドに置いてあるはずの時計を手探りで見つけると、約束の時間まで二時間は余…

いい兄さんの日 2024

 いい兄さんの日、今年は間に合いました!昨日1時間で書き上げたけど、前から書きたかったお話だったので、大満足です。今回は満を辞して、ウェルテクス長兄にいいお兄ちゃんになってもらいました(笑)兄弟がわちゃわちゃしてるのが大好きなので…

龍の愛し子

「殿下、おめでとうございます……!」金色が瞬く。はらはら、と彼女の――ユタの頬を伝った雫を、桔梗はどこか現実離れした思考に陥りながら、凝視した。「えっと、」「ご懐妊されております」困惑の表情を貼り付けた桔梗に、ユタがにっこりと畳み掛ける。告…

灯龍祭-黎明-

「桔梗の君、ご入場!」割れんばかりの歓声に出迎えられ、桔梗はグッと奥歯を噛み締めた。昼食後、腹ごなしに街を散策するフリをしてこっそり帰ろうとしていたところを子どもたちに捕獲されたかと思えば、あれよあれよという間に闘技場の門を無理やり潜らされ…

灯龍祭-言祝-

シュラたちが無事に荊月を救出し、会場へ戻ると、満面の笑みを浮かべた桔梗が彼らを出迎えた。だが、その目だけが笑っていない。冷たく、肌を刺すような鋭い殺気を一身に受けて、シュラは思わず上擦った悲鳴を漏らした。「ひっ……! は、母上、」「おかえり…

灯龍祭-円舞-

アンナはまず、烏を使って、男たちの尾行を続けた。そして、上空から男たちにぴたりと張り付くと、地上班であるジェットたちに詳細な場所を伝える。「ジェット先輩とシィナは左から、ミアちゃんはそのまま私の烏について行って」了解、と通信機越しに全員の返…

灯龍祭-行燈-

――どうしてこうなった!鼻先を掠めた太刀の先。不敵に微笑んだ叔父――蘭月(らんげつ)の姿に、シュラは舌打ちを溢した。「正気ですか……! 叔父上!」「姉上から、主席で卒業が決まったと聞いたのでな。お前の実力がどんなものか試してみたくなったのだ…

第3章『開花の刻』3話

「……ラ、」誰かの声に呼ばれた気がした。断続的に聞こえてくるそれにシュラが顔を顰めていると、気配が段々と近付いてくる。「シュラ」ああ、エルヴィの声だ。そう思って、ずっと彼女と繋いでいたはずの右手に力を込める。すると、きゅっと小さく握り返され…

第3章『開花の刻』2話

 桔梗の雷を真正面から受けたにも関わらず、ピンピンしているシアンを加えた聖騎士団一行は、空間魔法を使って世界樹の麓にやって来ていた。 ここに来るのは二度目だ、とシュラが眼光鋭く世界樹を見上げていると、その隣に立ったエルヴィが不安そうに彼の腕…

第3章『開花の刻』1話

 シュラとエルヴィがクラルテに戻ると、ジェットたちはまだ帰ってきていなかった。 桔梗に銀青の伝言――シュラの怖がりようを面白がった蒼月が勝手に話したのである――と水晶を持ち帰った報告をすれば、見たこともない、無垢な子どものような表情で笑い始…

第2章『たゆたう蕾』4話

 事態が落ち着く頃には、学術都市ミーティスの美しい石壁づくりの街並みは見る影もなかった。辺り一面に崩れた建物の残骸と、世界樹の根によって負傷した人々が倒れ込んでいる。「騎士科所属、第十三班入ります」 憔悴したエルヴィにこれ以上あの惨状を見せ…