嫌いじゃないけど、好きでもない

4話『てづくり』

「ゆうちゃんだ~!」子ども特有の高い声に名前を呼ばれて、侑里はぎくりと肩を強張らせた。スーパーに子どもの知り合いは居ない。偶然にも自分と似た名前の人が居たのだろう、と結論づけてトマトに視線を戻した。「ゆうちゃん!!」ワンピースの裾を小さな手…

3話『おみまい』

柏原くん。少し掠れたソプラノが耳朶を震わせる。夢現の眼を持ち上げれば、険しい顔の悠里がこちらを見下ろしていた。「こんなところで、寝ていたら危ないですよ」「んえ?」「細い路地とは言え、車も通るんですから」ああ、そうだった。痛む右肩に、桃麻はぎ…

2話『よくばり』

「いーんちょ」桃麻は、怒られることを承知で、委員長――藤田侑里を呼び止めた。常ならば校門前で会うはずの彼女だったが、今朝は服装チェックの当番ではなかったらしい。振り返った視線がじろり、とこちらを射抜くのに、桃麻はだらしなく眦を和らげた。「何…

1話『ごほうび』

――どうして、こうなった。 後頭部に冷えた黒板の硬さを感じる。 眼前に迫る同級生の顔に、侑里(ゆうり)ははくり、と息を吐き出すのがやっとだった。「……かしわばらくん」 やめて。 蚊の鳴くような頼りない声で呟かれた制止の言葉に、桃麻(とうま)…